貧困と戦争の親近性

どの時代どの国においても貧しさが戦争の原因となり、また戦争が貧しさの原因となってきたのは自明の理である。貧しい国で仕事が見つからずに兵役に応じる無職の若者は多いし、外人傭兵部隊への参戦もありだ。戦地に赴き、戦闘に参加してから無事に帰還しても中々職にありつけない。帰還しても故郷が戦闘で焼け野原になっていれば食うものも食えず、貧しさの中で荒れ地をさまようしかない。戦争が貧困をもたらし、貧困が戦争を生み出す一方、戦争で富を築く者もいる。貧富の差があればあるほど資源や外貨を戦費につぎ込む戦争利権屋が現れ、経済格差が広がっていく。今のロシアにおいても戦地であるウクライナの迫撃砲兵部隊などに駆り出されるのは貧しい若者達だ。オリガルヒと呼ばれる資産1千億円以上の大富豪がいる一方、月収僅か4万円余りの収入で戦地に赴き悲惨な戦闘の犠牲となる若い貧困層が少なくない。2年前に日本人医師が亡くなったアフガニスタンでも貧しさからテロ組織や米軍の傭兵になって生活を支える人達が数多く存在する。

さらに軍事力が人々の稼いだ富をかすめていく構造も普遍的事実である。コロナ禍で人々が疲弊し貧しくなろうが、各国の軍事費は青天井である。ミャンマーのように地域ごとに経済格差が激しく貧困問題が深刻な国ほど武力によって国民は押さえつけられ、周辺国との武力衝突が絶えない。国防費が聖域である国は少なくないが、今回のロシアのウクライナ侵攻で各国の国家予算に占める軍事費は空前の額に達する勢いだ。どの国も軍拡競争に走り始めると、お互い疑心暗鬼になり危険度が増して侵略したりされたりの侵略リスクが高まる。

日本も例外ではない。政権与党は防衛費の予算規模をGDP比2%以上にしようと画策している。が、自衛隊員が定員割れしている現状で何の予算を増やせというのか。おそらく米国から言い値で買わされる装備品の類いだろう。そんな大盤振る舞いする余裕が日本にあるのだろうか。今の日本は資源高に円安の進行で、経済力はガタガタである。国民の貧困問題は他のOECD諸国以上に深刻化している。可処分所得の目減りは過去最悪で、国民の2割以上が経済的な困窮状態に直面したという推計もある。

貧困問題を放置しておくと、社会的接点を失った失業者やワーキングプア層が拡大し、貧窮したひきこもりも増えていく。彼らはの多くはリアルな社会的接点を失ってもネットを使ったバーチャル空間には繋がっているため同質で極端な政治志向に陥りやすい。自分の気に食わない異論、反論を意識的かつ物理的に遠ざけるているのも特徴。カオスが始まると途端に過激になる。ヘイトクライムに身を寄せ「次のターゲットは日本だ!ロシアや中国、北朝鮮が攻めてきたらどうする?」とネット空間に煽られ、軍国主義者にもなる。おそらく納税して軍事費を負担する側ではなく、よしんば銃を持って戦う戦闘員の側にもならないから当事者意識がない。この種の草の根扇動者に煽られ日本の国家総動員的軍国化が進み、結果は一層の貧困化であり、危険な一触即発状態でもある。にもかかわらず、過去の国民総動員による大規模戦争の結果、焼け野原となったことで貧富の差が劇的に解消され、国民の平等化がもたらされたという皮肉な結末もある。富裕層の子供だからと言って兵役を逃れられたわけではないから戦争は格差拡大と平等化という二律背反の側面を持っていた。 

さて現在のウクライナ戦争を捉えると過去の日本の姿が二重写しとなる。資源が枯渇し苦し紛れで太平洋戦争を起こした加害者としての日本が現在ウクライナに攻め込んでいるロシアの姿に重なり、同時にロシアに攻め込まれた被害者としてのウクライナがアメリカとの熾烈な激戦で結局のところ物量の差で追い込まれていったかつての日本に重なるのは偶然か。過去の日本が現在のロシアとウクライナの両面を持っているというのは穿った見方だろうか。東南アジアや中国大陸で貪った大東亜共栄圏の利権が脅かされ、ABCD包囲網で孤立の一途を辿ったことから起死回生を図って真珠湾攻撃を仕掛けた日本と、ソ連崩壊後のネオ・ユーラシア主義的発想からNATOの包囲網を押し返すべくウクライナを侵略したロシアとはそこそこ共通点があるのではないか。両国とも貧富の差を覆い隠すべく厳しい情報統制を敷き、偏った国策に異論を唱えることが許されないという点も共通する。一方大国ロシアに攻め込まれ残虐な方法で東南部中心に侵攻地域を拡大されている今のウクライナと、南方で次々と支配地域を米軍に奪われ沖縄をはじめ各地が空襲で焼き尽くされ核爆弾まで落とされてしまったかつての日本とそっくりではないか。加害者、被害者としての両側面をもった日本の歴史が東欧を舞台に戦う今のロシア、ウクライナの姿に重なり他人事ではないと思えてならない。

ところで日本では、金融資産1億円以上の富裕世帯の割合は全世帯数の約2.4%。一方、年間122万円未満の収入しかない貧困層は約15.6%で、7人に1人が極度の貧しさで苦しんでいる。両者の格差は年々広がり、少数の富裕層と大多数の貧困層の経済格差は広がるばかりだった。政治が何もしないから中間所得者層が没落し、貧困者層の拡大が限りなく拡がってしまっていた矢先のコロナ不況とウクライナ戦争だ。最近は全国で生活保護受給者が若干減少したという統計があるが、それは日本の人口が減っているからであり、問題なのは人口減少以上に生保受給者の割合が減ってはいないということだ。どうみても貧困まっしぐらであり、政治が変わらないと貧者は野垂れ死か、ヘイトクライムの先兵に立つかだ。

貧困層への公的資金注入 ⇒ 預貯金せず必ず消費 ⇒ 街角景気の回復、コロナ不況の克服
電気料金の見直し ⇔ 原発依存ゼロで負担軽減
基地負担や高額兵器の爆買いをやめる ⇔ ぼったくりゼロで独立国家化