有史以来、武器商人と戦争は切っても切れない縁がある。

武器商人が部族間、国家同士の争いに乗じて双方に武器を売り込み、優位に立った勝者がその揺るぎない権力を圧倒的な武力で固めていくという人類史は今世紀も不動のようだ。常に権力は武力によって正当性を担保し、反権力側を寄せ付けず、勝てば官軍、負ければ軍門に下るしかないという野蛮な歴史は残念ながら今も続く。

プーチンは核戦力を含むロシアの強大な軍事力を政権の求心力を高めるために使っているし、何かと軍事力を誇示したがる中国も北朝鮮もミャンマーも同じ穴のムジナといえる。比類なき強大な武力=牙が仮想敵国に向かう前に自国民に対して向かってしまっていることに独裁国家の国民は目覚めた方がいい。西側の民主主義陣営にしても流石にむき出しの軍事力を権力維持に使うことはないが、暗躍する武器商人は無視できないほど政権内に入り込み、利権を貪るようなロビー外交を展開しているから決して誉められたものではない。

さて武器の発達が科学技術の進歩に役立ってきたという俗説もあるが、核兵器など大量殺戮兵器の誕生は進歩というより人類の退化、絶滅に繋がるとしか言えない。だから売り込み相手全てを喪失しかねない絶滅だけは避けようと暗躍する武器商人は核兵器の小型化を進め、大規模な使用は避けさせようとする。それにしても彼らにとって愛国心や主権国家、人権などの錦の御旗はどうでもよく、武器が双方に高額で売れればそれでよし。誰が勝とうが負けようが儲かればよいのだ。

今回のウクライナ戦争もNATOの東方拡大とアメリカによる武器の売り込みが背景にある。戦争が始まってからバイデン大統領は「いっさいの責任はロシアにある」と言うが、そもそも昨年の9月の段階で彼はゼレンスキー大統領とホワイトハウスで話し合い、ウクライナへ6000万ドルの軍事援助を決定するとともにNATO加盟を後押ししていた。9月というのはアメリカがアフガニスタンから撤退を決めた直後だ。さらに昨年12月よりバイデンはさらなる武器援助を開始し、アメリカのウクライナ軍事援助は25億ドル相当(3000億円)に上った。 そうした中で今年の2月、バイデン大統領は繰り返しロシアによる侵攻に言及していた。

今回の戦争の主力はロシアによる戦車機甲部隊を中心にした第二次世界大戦型の古い戦争といわれるが、実はSNS等の通信インフラやドローン、シャベリン、ハイマース、極超音速ミサイルなどの最新兵器の登場が目白押しで、米ソがいわばウクライナを新しい武器の実験場にしてしまっている。その中で敵陣を圧倒した最新兵器が次世代をリードする高付加価値兵器として武器市場で高値で取り引きされていく。国際武器市場で頭角を現わし稼げる武器を持つことは、武器商人にとって向こう何十年か外貨と利権を稼げる唯一の方法であるのだ。

NATOのストルテンベルグ事務総長は「さらなる装備品提供の用意がある」と表明。ウクライナ東部での戦闘激化が見込まれることを踏まえ「より大型で新しい装備品を提供する国への支持があった」とのこと。米欧はこれまで携帯式の対戦車ミサイルや地対空ミサイルなど小型兵器の提供が中心だったが、ブリンケン米国務長官は会見で、新たな兵器供与のため「何が最も必要か、日々検討している」と語った。既にチェコが旧ソ連製戦車などを発送し、ドイツも戦車供与を政府内で検討している。スロバキアのヘゲル首相は旧ソ連で開発された高性能地対空ミサイルシステム「S300」をウクライナに提供した。一方EUの拠出額は計15億ユーロ(約2000億円)に膨らむ。武器商人のほくそ笑む表情が目に浮かぶ。

その後もアメリカとNATOは絶え間なくウクライナに軍事援助を増強している。その意図は、ウクライナの(停戦への)交渉を妨げることにあるのではないかとさえ思ってしまう。ウクライナとロシアの間で、少しでも交渉の進展があると、すぐさまアメリカや欧州が慌ててウクライナに大量の武器や資金を提供していることは偶然ではあるまい。彼らはなぜ停戦交渉を邪魔しなければならないのか? 停戦交渉が進むということは、すなわち、ウクライナが中立国になることを意味する。これはアメリカをはじめとするNATOが最も望まないことで「NATOの東方拡大」の方針に合致しない。アメリカは停戦協定に署名させたくない。だから絶え間なく軍事支援を増強している。そうすればその分だけ戦争を長く続けることができるからだろう。  

ところで旗艦『モスクワ』やフリゲート艦『マカロフ』沈没は、ロシアにとって打撃は大きいのだろうか?ロシア海軍としてはウクライナ軍の新型対艦巡航ミサイル「ネプチューン」で巡洋艦、ひょっとすると戦術核弾頭搭載ミサイルも一緒に沈められたということで面目は失ったようだが、総合的に考えると戦力的に大打撃には至らず、むしろロシアが世界中の至る所で中国軍や北朝鮮軍など悪の枢軸国との連携を深めていくきっかけになるのではないか。今回脆弱さを露呈したロシア海軍は、極東で中国海軍との連携を一段と強める動きを強めていく可能性があり、日本も他人事ではない。東シナ海、南シナ海、南西諸島に近接するフィリピン海での海洋戦闘を考えると中国海洋戦力(中国海軍+中国空軍+ロケット軍)が今のところ最も強力で、ここにロシア太平洋艦隊が加わるとロシア攻撃原潜やAIP潜水艦などが加算され、圧倒的な戦力となりかねない。もはや自衛隊+米海・空軍+韓国海軍は劣勢となってしまう。米軍には核兵器があるが、下手に使ってしまうと米国本土に大陸間弾道弾を打ち込まれるから簡単には使わないし、使えない。

こうした外部環境の変化は日本の安全保障にとって危険な兆候である。が、だからといって日本が敵基地や敵司令部に対する攻撃能力を持ち、核弾頭を実戦配備する意味はあるだろうか。これらの仮想敵国は日本を侵略しようと決断すれば日本からの返り血を多少浴びようが簡単に実行するはずだ。核兵器の打ち合い戦になった際に国土の広い国でしかも核シェルターの完備している国と国土が狭く人口密集地ばかりの日本とでは受ける被害推計の差は絶望的に異なる。しかも日本は海上から撃って下さいというばかりに50基以上の原発施設が海岸沿いに並んでいるのだから、日本が核攻撃で敵対国と勝負しようものなら相手国は通常ミサイルを原発に打ち込む構えを見せるだけで決着がついてしまう。1発のミサイルで甚大な放射能被害を日本に与えることが出来るのだから。そんなアキレス腱を抱えたままでは戦争ごっこなど出来っこないのだから頭を冷やそう。万が一武力侵略されても武力だけに頼ると双方エスカレートし自滅の道に進むしかないことを改めて認識し、国内にも危機に便乗して蔓延る戦争屋の誘惑にも負けず、国民の冷静かつ強固な意思と忍耐力という内的な力で侵略者と悪質な戦争屋には従わず、非暴力的手段で押し返していく術を身につけるべきだろう。

そもそも周辺国は日本を侵略するメリットとデメリットを天秤にかけ総合的にメリットが少ないから攻めてこないに過ぎない。しかし日本が極端な軍事大国化に邁進し始めれば彼の国にとっては放置するデメリットより介入するメリットが上回り、日米安保があろうがなかろうが日本への攻撃を決断するかも知れない。だから日本の軍事大国化はかえって周辺国からの戦闘リスクを高めるだけで、喜ぶのは売り込みに手ぐすね引いて待っている武器商人だけであろう。

とにかく武器商人は軍事リスクが高まるところに出没しては適正な市場価格など度外視しながら軍備費を掠め取っていくから国賊ものだろう。最近も航空自衛隊岐阜基地の施設工事を巡って入札情報を漏らして公正な入札を妨害したとして防衛省近畿中部防衛局の関係者が逮捕された。ウクライナ情勢を受けて防衛費増額が高まれば高まるほどこのような官製談合が起きて防衛予算が中抜きされていく構造が露わになる。国防予算の利権にたかる連中ほど折に触れて国家存亡の危機を憂いているから気を付けた方がいい。犠牲になるのは血税を無駄にむしり取られ、周辺国から命の危険に冒される国民だ。

<参考資料>

【1位】アメリカ 93億7200万ドル(1兆1567億円)

【2位】ロシア 32億300万ドル(3984億円)

【3位】フランス 19億9500万ドル(2481億円)

CNN(電子・日本語版)は2018年12月、「ロシアの軍事産業、世界2位の規模に 英国抜く」との記事を配信した。